「VOCA 展 2007」-現代美術の展望-新しい平面の作家たち
「The Vision of contemporary Art 2007]
上野の森美術館 The Ueno Royal Museum  2007.3.15〜3.30
Invitation」
墨,カラーインク,膠,
テトロン布地,綿布、木材

H239cm×W195cm×D19cm



長谷川等伯は霞につつまれた松林を、モネは靄がたちこめる水面を描いた。しかしこれほどまでに湿り気を含んだ空気によって身体が包みこまれる感覚はあっただろうか。吉賀あさみの作品は、霧の中へ、自他の境界が溶け出す世界へと、みる者を誘いこむ。

一見した印象とは裏腹に、吉賀の制作の基礎となっているのは自然をうつす細密なドローイングである。アトリエのある鳥取・大山で身近に観察された風にゆれる木の葉、生い茂る下草が、シルクスクリーンに用いられる半透過性のテトロン布に墨とインクで描かれる。布の表裏から美しい描線の重ねられたこの画面は、しかし、作品を構成する4枚のうちの1枚でしかない。奥に木綿の白布、手前にドローイングから抽出されたエッセンスが描かれた布、そして最後に表面を覆う無垢のスクリーンが間隔をおいて木枠に張り込まれる、こうして描線そのものはほとんど見えなくなった。それは絵画であることに敢えてオブラートをかけるかのような手法である。

画面に近づき、あるいは遠ざかり、斜めからのぞき込む。離れてふり返る。それは林の小道それとも森から海へと流れる川?木立に望むのは、山それとも孤島?

布を透過する光は、視線の動きに応じて異なるイメージを立ち上げ、無限の関係性をもたらす。そこに現れるのは、霧そのものではなく、光によって変幻する色や形象でもない。自然という全体性のなかで、自らがその一部たることを意識するときに感知される、世界の一様相である。

−松下和美(群馬県立館林美術館学芸員)::展覧会図録より