2002.4月号 BT/美術手帖 ギャラリー・レビュー  text> 埼玉県立近代美術館 梅津元

吉賀あさみ 時限美術計画/TLAP 02.2.12〜02.2.23

 

  会場に入ると、大きな矩形の枠が自立している。近づと、その枠には薄い布地が張られ、うっすらとドローイングが施されている。その布地には透過性があり、内部にも同様の布地が層をなすように張られていることがわかる。また裏側に回っても同様に見える構造になっており、全体では五つの層がある。しかし、層の重なりが把握できるのは三層までというのが筆者の実感であった。身体を包み込むような皮膜的な感覚と、うっすら描かれたドローイングのもたらす浮遊感は、絵画の生成を予感させる魅力に満ちている。

 布地には透過性があり、各層に描かれたドローイングが重なって見えてくる。わずかでも視点を変えると層の重なり方が微妙に変化し、淡い色彩のドローイングはその希薄な印象からは想像もつかない動的で複雑な視覚体験を誘う。中央に位置する層が比較的よく描き込まれており、その他の層はかろうじて描かれていることが分かる程度にとどめていることが、見る者の視点の移動と連動して流動する複合的なイメージの成生に効果を上げているようだ。

しかし、この層の重なりという仕掛けそれ自体が、この作品の主題なのではない絵画を見る体験が、絵画を成り立たせている物質へと収斂するのを回避するためにこそ、三次元的な構造が要請されているように感じた。

なぜなら、物理的に絵画面が透過性のある五つの層に設定されていても、この作品を規定しているのはあくまでも絵画的な視覚だからである。

絵画の奥行を物理的にに五つの層に分離しつつ、各層に描かれたイメージが見る者の視覚において統合されること、それがこの作品の魅力なのである。

 一方、この作品が絵画と袂を分かつのは、物理的な奥行とは異なる視覚的な奥行きが見る者の知覚において発生し、なおかつ見る者の視点の変化と連動して、重層的なイメージそれ自体にも時間軸を伴った動的な振幅が与えられる点にあるだろう。